柔道は日本発祥の武道で,今ではオリンピック種目の1つとされるほど世界中に広まっています.
オリンピックでは「柔道は日本のお家芸」とまで言われ,最も金メダルが期待されるといってもいい種目です.
とはいえ,友人から「オリンピックでもなんとなく見てるけど,どうやったら勝ち負けが決まるのか分からない」という感想をよく聞くので,「あまり柔道のルールを知らない」という人は少なくないように思われます.
確かに,柔道は
- 投げたように見えてもポイントにならない
- 何もしていないように見えたけど指導(反則)になった
など,知っていないと「どうなってんの?」と思えてしまう場面もあるように思います.
この記事では,超初心者の人も楽しんで柔道を見ることができるように
- 柔道の成り立ち
- 柔道のルール
- 柔道の見どころ
- 柔道のオススメ動画
を順に説明します.
柔道の成り立ち
柔道は様々な柔術の流派を組み合わせて作られた武道で,嘉納治五郎先生が柔道の技術体系の開祖とされています.
そのため,柔道には流派は存在しません.
武道というと単に「相手を倒すための技術」という意味合いを感じてしまいますが,嘉納先生は鍛錬と教育を目的として柔道を広めたと言われています.
その際,嘉納先生は「精力善用と自他共栄は,社会生活の根本原則である」という信念を掲げています.
現在でも,
- 精力善用:目的を達するために,心身の力(「精神の力」と「身体の力」)を最も有効に使用すること
- 自他共栄:相互に協調することで,自分だけではなく社会,組織が共に栄えていくこと
の2つは柔道の2大理念として掲げられています.


このようにもともと柔道は武道でありスポーツではありませんでしたが,時間が経ち柔道が普及するとともに(良くも悪くも)スポーツとしての側面が強くなっていきます.
柔道がオリンピックに初めて登場するのは,1932年のロサンゼルスオリンピックからです.
ただし,これは正式種目ではなく,公開種目としてだったようです.
それ以来,嘉納先生がまとめ上げた柔道は”JUDO”として世界に広く浸透していき,技術の改良やルールの改正が重ねられ,現在の柔道の形になりました.
しかし,技術やルールは新しくなっても,今なお「精力善用」「自他共栄」の理念が変わらず受け継がれていることに,私は感慨を覚えます.
皆さんはいかがでしょうか?
柔道のルール
柔道のルールを説明します.
「一本」と「技あり」
柔道の「勝ち負け」を説明する際には,一本,技あり,有効の説明が欠かせません.
2018年のルール改正で「有効」は用いられなくなりました.したがって,現在では「一本」と「技あり」のみとなっています.
一本,技あり,有効は
- 相手を倒す
- 抑え込む
などすることによって得られるポイントで,次のような意味になっています.
- 一本:1回取ればその時点で勝ちとなり,試合が終了します.
- 技あり:2回取れば「一本」となり,試合が終了します.
有効:何回取っても勝ちにはなりませんが,制限時間が終了した時点で両者の「技あり」の数が一緒なら,「有効」が多い方の勝ちとなります.
技ありを2回とって一本になることを「合わせ技」といいます.日常でも「合わせ技」という言葉を使うことがありますが,これは柔道に由来しているわけですね.
自分が有効を10回取っていても,相手に技ありを1回でも取られていると負けとなります.
また,以前は有効の下に効果というものもありましたが,現在では用いられなくなっています.
2018年のルール改正には「一本をとる柔道」を推奨する求めする狙いがあるようです.
柔道の技は大雑把に立ち技と寝技に分類され,それぞれで一本,技ありがとれます.
柔道のルールは
- 講道館ルール(講道館試合審判規定)
- 国際ルール(国際柔道連盟 (IJF) 試合審判規定)
の2つが主流で,講道館ルールは国内試合で用いられることが多く,国際ルールはオリンピックなどの国際試合で用いられることが多いです.
以下,この記事では国際ルールに基づいて説明します.
立ち技
立ち技は「投げ技」と言われることもあり,相手を投げることにより一本を狙います.
立ち技での一本,技ありの基準は,大雑把に次のようになっています.
- 一本:相手を「コントロール」して,それなりの「強さ」と「速さ」で「相手の背中が畳につく」ように投げたとき
- 技あり:相手を「コントロール」して「相手の背中や肘が畳につく」ように投げたが,「強さ」や「速さ」が不足しているとき
つまり,投げた時の「強さ」と「速さ」とがどれだけ達成できているかで,一本,技ありのどちらになるかが変わります.
また,「背中や肘がつく」のが一本,技ありの条件である以上,相手がうつ伏せに畳に落ちた場合などは一本,技ありにはなりません.
なので,投げられてから体をひねって逃げようとすることはよくありますが,これは背中がつくのを回避しているわけですね.
投げたように見えても技ありにも一本にもならないことがありますが,それはこれが理由であることが多いです.
寝技
寝技は固め技,絞め技,関節技により一本を狙います.
固め技
抑え込みとは「相手を畳に仰向けの状態にして上から制御し,反撃できない体勢にすること」を言い,相手を抑え込んで一本を狙う技のことを固め技といいます.
抑え込みが成立している時間によって,一本と技ありは次のように定められています.
- 一本:20秒の抑え込み
- 技あり:10秒以上,20秒未満の抑え込み
また,抑え込まれている側は
- 起き上がる
- うつ伏せになる
- 相手の胴体や脚に,自分の脚を絡める
- 場外に出る
のどれかをすることで抑え込みが解けます.
この中でも2つ目の「相手の胴体や脚に,自分の脚を絡める」ことで抑え込みが解けるのは大切で,実際の試合では押さえ込む側は相手の上半身を抑え込んでから,絡まれた脚を解いて抑え込みに持ち込むことがよくあります.
関節技
肘関節を極めるとは,「肘を本来曲がらない方向へ力を加えて傷めつける」ことで,肘関節を極める技のことを関節技といいます.
柔道で許されている関節技は肘関節へのみで,手首や肩など肘以外への関節技は禁止されています.
肘以外へ関節技をかけた場合は一発で反則負けになります.
関節技が極められた側が我慢できない場合,畳や相手を2回叩くこと(タップ)により「参った」となり,その時点で一本となります.
稀に「参った」をせず肘を傷めて試合続行が不可能になることがありますが,そうなった場合も一本となります.
絞め技
絞めるとは「頸動脈を絞める」ことで,絞める技のことを絞め技技といいます.
絞め技はあくまで「頸動脈を締める技」であって「気管を締める」わけではありません.そのため,絞め技は息が苦しいというより,脳に血液が回らず意識が遠のきます.
このため,気管を絞めて落とそうとすると時間がかかりますが,絞め技が完璧に決まれば数秒で落ちる(失神する)こともあります.
関節技と同様に,絞め技が極められた側が我慢できない場合,畳や相手を2回叩くこと(タップ)により「参った」となり,その時点で一本となります.
「参った」をしないと落ちることがありますが,そうなった場合も一本となります.
反則
2種類の反則があります.
軽い反則
軽微な反則をした場合には指導が与えられ,指導が3つ与えられるとその場で反則負けとなります.
指導となる行為はいくつもありますが,よくある指導の理由は次の2つです.
- 相手と組み合おうとしない
- 自分から技をかけない(極端な防御姿勢をとる)
「じゃあ,技かけまくればいいのでは?」と思えそうですが,実はそう簡単な話ではありません.
のちに説明するように,柔道には相手がかけてきた技をいなして,逆にかけ返す返し技というものがあります.
このため,迂闊に中途半端な技を出してしまうと,返し技を受けて逆に負けてしまうことがあります.
そこで「自分がチャンスの時だけ組み合おう」「返し技ばかり狙おう」という戦略が思い浮かぶわけですが,柔道ではこれらを指導という制度により禁止しているわけですね.
柔道はもともと「鍛錬」と「教育」を目的としていましたから,「正面から相手と向き合わないズルい考え方は,柔道の理念に反する」というところでしょうか.
一本や技ありとは異なり,指導は3つ与えられれば反則負けになるだけで,指導の数に差がついていても勝敗に関係はありません.
重い反則
一発で反則負けになる思い反則もあります.
たとえば,
- 手で相手の帯より下の部分を攻撃/ブロックすること
- 寝技で相手の肘以外の関節に関節技をかけること
などがあります.
以前は「諸手狩り」「踵返し」という手で相手の足を掴む技もあったのですが,最近は「手で相手の帯より下の部分を攻撃する」と反則というルールができたせいで使えなくなってしまいました.
ルールブック
このあとに「柔道のみどころ」を紹介しますが,これまでの説明でもっと良く知りたいという方には,以下のルールブックがオススメです.
観戦&実戦で役に立つ! 柔道のルール 審判の基本 (PERFECT LESSON BOOK)
著者の一人である鈴木桂治氏はアテネオリンピックの100kg超級で金メダルを獲得した柔道家で,もう一人の岸部俊一氏は審判員の中で最高ランクのSライセンス審判員です.
このルールブックは非常に読みやすく,写真を交えて丁寧に解説されており,初心者にも非常に読みやすいのが特徴です.
といっても,子供騙しのような「なんちゃってルールブック」ではなく,東京オリンピックでも採用される最新のルールがしっかり載っています.
また,単にルールだけではなく,柔道技(立ち技も寝技)も載っているので,柔道を観戦しながら柔道技を確認できるのは,初心者にもありがたいところですね.
全部で86個の柔道技が載っているのですが,「そんなんあったな(笑)」と思うようなマニアックな技まで載っているので,この一冊さえあれば柔道の中継でもルールや技で困ることはないでしょう.
みどころ
「投げ技」の美しさ,「寝技」の上手さが柔道の「みどころ」であるのは言うまでもないでしょう.
加えて以下のことを知っていれば,さらにアツく観戦できるようになります.
組み手争い
立ち技では相手の襟と袖を握るのが基本的な姿勢です.このとき,
- 親指が相手の腕に密着するように,「袖」を握れば力は伝わりやすいですし,
- 上の方の「襟」を握れば力はよく伝わります.
このように襟と袖をしっかり握ることができれば,しっかり技に入ることができます.
ということは,逆に相手に良いところを握らせないようにするのも大切で,自分だけ良いところを握れるような争いを組み手争いといいます.
オリンピックレベルの選手が良い組み手になれば,必ずといって良いほど技に入ることができます.
それほどに組み手がしっかり取れることは大切で,柔道のみどころのひとつです.
立ち技から寝技への連携
投げ技に入っても,必ず決まるわけではありません.相手がうつ伏せに倒れれば,有効にすらなりません.
ですが,投げる時に相手の袖や襟のいい位置を握った状態で寝技へ移行すれば,立ち技で決まらなくても,そこから相手をひっくり返して寝技に持ち込むことができます.
例えば,
- 立ち技で技ありを決める
- そのまま寝技に移行する
- 抑え込みで技ありをとって,合わせ技の一本
ということもよくあります.
ですから,倒された相手は投げられた直後にすぐにうつ伏せになろうとしますし,うつ伏せになれなくても相手に脚を絡めていれば抑え込みにはならないので,相手の胴体に足を絡めようとします.
このような攻防もみどころのひとつです.
返し技
先ほども少し触れましたが,柔道では体勢が十分でないまま技に入ってしまうと,バランスを崩してしまい,逆に投げられてしまうことがあります.
このように「相手がかけた技を捌き,逆に相手をコントロールして投げる技」のことを返し技と言います.
返し技があることによって投げる側は迂闊に技に入ることができなくなりますが,逆に「返し技」を恐れすぎると指導を取られかねません.
ここの絶妙な駆け引きに面白さがあるのです.
また,返し技は判断が難しいことも多く,誤審が起こることがあります.
かつて篠原信一氏が戦ったシドニーオリンピック(2000年)の男子柔道100kg超級の決勝で「世紀の大誤審」とも言われる誤審が起こりました.
この試合では,篠原信一氏が「内股すかし」という返し技をきめたにもかかわらず,一本になるどころか相手にポイントが入ってしまいました.
結局,その相手の有効のポイントが最後まで響き,篠原信一氏は銀メダルに終わることになりました.
白のドゥイエ氏が内股(内腿を払い上げる技)をかけ,青の篠原選手は左足を上げてその技を空回りさせています.
この返し技を「内股すかし」といい,ドゥイエ選手はそのまま反転させられ背中から落ちており,文句なしの一本だと私は思います.
このことに関して,のちに審判団も相手国のフランスも誤審であったと述べています.
今回の記事の趣旨に沿いませんので,誰が悪いというつもりはありませんが,このように「返し技」は判断が難しいものでもあります.
しかし,この誤審から「ビデオ判定」や「審判委員(ジュリー)」が制度化し,人為的ミスを排除する制度が導入されることにもなりました.
柔道のオススメ動画
私が軽量級のため,趣味が軽量級に偏ってしまっていますが,最後にオススメの動画を最後に紹介します.
野村忠宏氏
野村忠宏氏は1996年のアトランタオリンピック,2000年のシドニーオリンピック,2004年のアテネオリンピックの60kg級で史上唯一のオリンピック柔道3連覇を果たしています.
なお,この動画は3回目のアテネオリンピックですが,2回目のシドニーオリンピックでは「全て違う技で勝つ」と宣言し,実際に全て違う技で勝っています.
こんな野村選手は子供の頃は勝てなかったそうですから,本当に努力の人なんやろうなと思います.
もっとも本人は「俺は天才」と笑っていらっしゃいますが(笑)
古賀稔彦氏
1992年のバルセロナオリンピックの71kg級で金メダルを獲得しています.
豪快にもっていく「一本背負い投げ」が得意技で,技のキレが凄まじい選手です.
完全に相手の懐に潜り込んで,持っていってます.
完全に相手を乗せているあたり,まさに「投げる」という表現がぴったりですね.
大野将平氏
2016年のリオデジャネイロオリンピックの73kg級で金メダルを獲得しています.
立ち技,寝技のキレに加えて,最後まで投げ切って決める一本は,見ていて非常に気持ちがよく爽快です.
柔道に対する考え方や姿勢を見ても,選手というより柔道家という方が個人的にはぴったりきます.
最後から2本目の投げ技は後ろから相手を抱えて投げる「裏投げ」という立ち技ですが,私にはセンスの塊のようにしか感じません.
コメント
[…] いずれ、中学生になれば絞め技が解禁になり、高校生になると関節技も解禁になってきます。知っているけど使わない、知らないというのは大きな差です。(柔道のルールはこちらから) […]
試合時間は何分ですか。試合の時に販促したらどうなりますか。
試合時間は大会によって異なります.日本トップレベルなら5分の場合もありますし,中高生の試合なら2,3分ということもあります.
また,反則の種類によりますが,一発で反則になることもあれば,軽微なものなら「指導」を取られ相手にポイントを与えられることになります.